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山形地方裁判所 平成9年(行ウ)5号 判決

山形県鶴岡市みどり町二一番三七号

原告

斎藤日出子

右訴訟代理人弁護士

津田晋介

山形県鶴岡市泉町五番七〇号

被告

鶴岡税務署長 高村宗男

右指定代理人

大塚隆治

伊藤雅一

八鍬治雄

齋藤二葉

齋藤正昭

高橋藤人

大島眞彰

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に賦課した左記課税処分を取り消せ。

(一) 被告が平成七年六月一日付でした原告の平成五年分所得税の更正、加算税の賦課決定処分を、平成七年一〇月二六日付でした異議決定により分離長期譲渡所得と認定した四二三七万四四二一円に対する一一七〇万円の所得税及び過少申告加算税一七四万二〇〇〇円

(二) 被告が平成七年六月一日付でした原告の平成六年分所得税の更正、加算税の賦課決定処分により、配当所得と認定した六七二万一六五二円、雑所得と認定した六万九五四〇円に対する一六一万七七〇〇円の所得税及び加算税二一万六〇〇〇円

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、平成五年分所得税につき、別表一の「確定申告」欄記載のとおり、確定申告をした。

(二)  被告は、平成七年六月一日、原告の平成五年分所得税につき、別表一の「更正及び加算税の賦課決定」欄記載のとおり、更正(以下「本件五年分更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件五年分決定」といい、本件五年分更正と併せて「本件五年分各処分」という。)をした。

(三)  原告は、本件五年分各処分を不服として、平成七年七月二六日、被告に対して異議申立てをしたところ、被告は、平成七年一〇月二六日、右各処分を一部取消し、別表一の「異議決定」欄記載のとおり再更正及び過少申告加算税賦課決定を(以下右再更正及び右過少申告加算税賦課決定を併せて「本件異議決定」という。)した。

(四)  原告は、本件異議決定を不服として、平成七年一一月二五日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、平成九年三月一二日付で棄却された。

2(一)  原告は、平成六年分所得税につき、別表二の「確定申告」欄記載のとおり、確定申告をした。

(二)  被告は、平成七年六月一日、原告の平成六年分所得税につき、別表二の「更正及び加算税の賦課決定」欄記載のとおり、更正(以下「本件六年分更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件六年分決定」といい、本件六年分更正と併せて「本件六年分各処分」という。)をした。

(三)  原告は、本件六年分各処分を不服として、平成七年七月二六日、被告に対して異議申立てをしたが、同年一〇月二六日付で棄却されたため、同年一一月二五日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、これも平成九年三月一二日付で棄却された。

3  しかしながら、本件五年分更正のうち、別紙一の「異議決定」欄記載の分離長期譲渡所得の金額0円を超える部分は、相続税課税対象となるべきであってそれ以外の課税対象にはならない。それにもかかわらず、本件五年分更正は、これを所得税の課税対象として処分したものであって違法であり、本件五年分更正(但し、本件異議決定による一部取り消された後のもの。以下同じ)及びこれを前提とする本件五年分決定(但し、本件異議決定による一部取り消された後のもの。以下同じ)も違法であるから、原告は、本件五年分各処分の取消しを求める。

また、本件六年分更正のうち、別表二の「確定申告」欄記載の配当所得の金額0円、雑所得の金額0円を超える部分は、相続税課税対象となるべきであってそれ以外の課税対象にはならない。それにもかかわらず、本件六年分更正は、これを所得税の課税対象として処分したものであるから違法であり、本件六年分更正を前提とする本件六年分決定も違法であるから、原告は、本件六年分各処分の取消しを求める。

4  仮に3の主張が認められないとしても、本件五年分更正及び本件六年分更正は、その基礎となる所得額の認定に誤りがあるから違法である。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(四)の各事実は認める。

2  請求原因2(二)ないし(三)の各事実は認める。

3  請求原因3の主張は争う。

4  請求原因4の主張は争う。

三  抗弁(課税処分の根拠)

1  平成五年分更正について

(一) 平成四年一月二日、被相続人齋藤清十郎(以下「清十郎」という。)の死亡により相続が開始し、原告は別紙物件目録記載一及び二の各土地(以下「本件土地」という。)並びに有限会社万寿閣かめや(以下「万寿閣」という。)に対する出資持分二〇口について一〇分の六の持分をそれぞれ取得した。万寿閣は、別紙物件目録記載三の建物(以下「本件建物」という。)を所有していた。

本件土地及び本件建物は、抵当権の実行により一括して競売に付され(以下「本件競売」という。)ていたところ、平成五年四月九日、合計一億三四五六万円で競落人に競落され、同年六月二八日付で配当表が作成された。

本件土地の評価額は三五六二万七〇〇〇円、本件建物の評価額は二六六〇万二〇〇〇円であるから、右売却価額を右の各評価額で案分すると、本件土地の価額は七七〇三万七五四〇円、本件建物の価額は五七五二万二四六〇円となる。

本件土地についての原告の持分は一〇分の六であるから、原告の本件土地の売却価額に対する持分は、本件土地の売却価額に一〇分の六を乗じた四六二二万二五二四円となる。

(二) 右持分から長期譲渡所得の概算取得費(租税特別措置法三一条の四第一項、二項)として右持分に一〇〇分の五を乗じた二三一万八一一二六円、手続費用として売却手続に要した費用である一五六万三二一四円のうち本件土地についての原告の負担分である五三万六九七七円及び長期譲渡所得の特別控除(同法三一条三項)といて一〇〇万円を差し引き、四二三七万四四二一円を原告の譲渡所得とした。

2  平成六年分更正について

(一) 配当所得について

(1) 原告は、平成五年七月一日、前記平成五年六月二八日付配当表のうち、本件建物の競売により万寿閣に配当されることになった競売剰余金三六六〇万八二六二円について万寿閣を被告として配当異議の訴えを提起したところ、平成六年六月七日、原告の万寿閣に対する出資持分に応じて算出された七三二万一六五二円の交付を受けることで和解が成立した。これを受けて、平成五年六月二八日付配当表は、平成六年七月一五日に変更された。

(2) 原告が提起した右配当異議訴訟の主たる請求は本件建物について万寿閣の所有権を争うもの、予備的請求は本件建物の万寿閣所有を前提に万寿閣の事実上の解散を理由として残余財産の分配を請求したものであるところ、右のとおり成立した和解の内容は、原告の予備的請求のとおり、万寿閣に配当されるべき本件建物の競売剰余金のうち原告の出資持分に応じた金額を原告に配当し、残額を万寿閣に配当することを内容とするものであること、原告は万寿閣について会社解散請求の訴えを山形地方裁判所鶴岡支部に提起していることなどからすると、右和解は、万寿閣に配当されるべき金額を万寿閣の残余財産の分配として原告らに分配した趣旨であるものと認められ、原告に対する配当金が確定した時点で原告の万寿閣に対する持分は消滅したものというべきである。そして、株主等が当該法人からの退社又は脱退により持分の払い戻しとして交付される金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金額等の合計額が法人の資本等の金額のうちその交付の基因となった株式等に係る部分の金額を超えるときは、利益の配当又は剰余金の分配の額とみなされる(所得税法二五条一項二号)。

したがって、本件建物の競売剰余金のうち原告が配当を受けた金額は、みなし配当所得に該当するというべきであるから、所得税法二六条一項の規定により原告の出資にかかる部分である六〇万円を差し引いた六七二万一六五二円を原告の配当所得とした。

(二) 雑所得について

原告は、前記配当異議の訴えに伴う競売剰余金の供託による利息六万九五四〇円を取得した。右は、所得税法三五条一項により、雑所得に該当する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)の事実は認める。

2  抗弁1(二)の事実は否認する。

3  抗弁2(一)(1)の事実は認める。

4  抗弁2(一)(2)の主張は争う。

5  抗弁2(二)の事実は認め、主張は争う。

五  原告の主張

1  原告は、清十郎から包括遺贈を受けたところ、他の相続人からの遺留分減殺請求により、本件土地及び万寿閣に対する出資持分二〇口について一〇分の六の持分をそれぞれ取得するに至ったものである。右遺贈は負担付であったが、本件競売において負担が除去され、原告は、競売剰余金として、平成五年六月二八日、二七九五万一四七二円を、平成六年七月一五日、七三九万一一九二円の交付を受けた。これが受遺者である原告が取得した総額である。

負担付遺贈を受けた者が負担を除去されて交付を受けた資産については、相続税法一条により相続税が賦課されるべきであり、負担除去のためになされた競売は負担除去のための手段にすぎないので、独立の課税原因ではない。

したがって、本件土地の競売剰余金及び本件建物の競売剰余金のいずれについても、その取得原因は遺贈であり、所得税が賦課されるべきものではない。

なお、被告は、本件建物の競売剰余金の取得につき、みなし配当所得にあたるとしているが、原告は万寿閣から退社も脱退もしておらず、依然として万寿閣の社員であり、万寿閣解散の事実もない。本件建物の競売剰余金の取得と、本件土地の競売剰余金の取得は、遺贈という同一の原因により取得したものであって、本件土地と本件建物を区別して取り扱う理由はなく、本件建物の競売剰余金についてみなし配当所得であるとされる理由はない。本件建物の競売剰余金の取得原因は、万寿閣の持分の遺贈である。

また、被告は、供託利息につき雑所得であるとしているが、供託利息は競売剰余金から生じた法定果実であるから、元本たる競売剰余金から派生したもの、その膨張したもので、元本と一体をなすものである。よって、供託利息に対する課税は、元本たる供託された競売剰余金と同一に取り扱われるべきであり、相続税の対象となるべきものである。

2(一)  仮に、被告主張のとおり、本件土地の競売による金員取得が譲渡所得であるとしても、譲渡所得は、資産の譲渡による増加益に課税するものであるところ、遺贈があった場合には、遺贈された価額を越える価額で売却されたときにその超過額が譲渡益であるから、この譲渡益に対し譲渡所得として課税されるべきであるのに、被告は、右増加益を認定することなく、安易に長期譲渡所得としており、この点に違法がある。

(二)  また、本件土地につき、被告は譲渡所得を四二三七万四四二一円と認定するが、原告が現実に取得した額は二七九五万一四七二円であるから、これについても誤りである。

六  原告の主張に対する被告の認否及び反論

(認否)

1 原告の主張1は争う。

2 原告の主張2(一)及び(二)は争う。

(反論)

1 原告の主張1について

原告が清十郎から取得した本件土地及び万寿閣に対する出資持分二〇口についての一〇分の六の持分は、相続を原因とするものであるから、相続税課税の対象となるのは当然である(相続税法一一条)。

しかしながら、原告の本件競売における競売剰余金等の取得は、あくまでも競売を原因とするものであり、相続を原因とするものではないから相続税課税の対象とはならない。

そして、相続ないし遺贈と競売とは権利取得の原因が異なる別個の処分であり、手段と結果の関係には立たない。

なお、本件建物の競売剰余金は、前述のとおりみなし配当に該当すると考えるが、仮に原告が万寿閣から退社又は脱退していないとしても、原告は万寿閣に対する持分に応じて右剰余金を受領しているのであるから、その金員は万寿閣の社員としての地位に基づく万寿閣からの所得であって、配当所得そのもの(同法二四条)に該当する。そして、原告が依然として万寿閣に対する持分を有している場合には、原告の出資に係る部分である六〇万円を差し引く必要はなく、本件建物に関して受領した七三二万一六五二円全額が配当所得として課税されることになる。

2 原告の主張2について

原告が清十郎から遺贈を受けた財産は、本件土地及び万寿閣に対する出資持分二〇口についての一〇分の六の持分のみならず、本件土地が負担していた抵当権の被担保債権も含まれるのである。そして、負担付遺贈により取得した財産を競売により売却した場合、売却により得られる金員で債務の除去を実現するのであるから、所有資産が譲渡によって所有者の手を離れるのを機会に、その所有期間中の増加益を精算して課税すべく、右売却を新たな課税原因として所得税が課税されるのは当然である。

そして、本件土地につき譲渡所得として計算されるのは、本件土地の売却により原告が現実に取得した金員ではなく、本件土地の売却金額そのものである。すなわち、競売による本件土地の所有権移転の代償は、競落代金そのものに他ならず、競落人による代金納付のときに競落人は本件土地所有権を取得し、その代金は元所有者の所有となるものであって、それが現実に元所有者の手を経ないで担保権者等に配当されたとしても、その実質的帰属者は担保物の元所有者であるからである。

第三証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1(一)ないし(四)及び同2(一)ないし(三)の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件五年分各処分及び本件六年分各処分の適法性について

1  抗弁1(一)、2(一)及び2(二)の各事実は当事者間に争いがない。

2  当事者間に争いのない事実からすると、本件土地の譲渡に係る原告の取得金額を譲渡所得と認定したことは適法である。また、証拠(甲二)によると、本件競売における手続費用は一五六万三二一四円であると認められ、右認定事実及び当事者間に争いのない事実からすると、長期譲渡所得金額は被告主張のとおりであると認められる。

したがって、これを前提とした被告の本件五年分各処分(但し、本件異議決定により一部取り消された後のもの。)は適法である。

さらに、当事者間に争いのない事実からすると、本件競売において原告が取得した本件建物の競売剰余金及び競売剰余金の供託による利息が相続税の対象となる理由はなく、被告が右競売剰余金から原告の出資にかかる金額を差し引いた金額を配当所得と認定し、競売剰余金の供託による利息を雑所得と認定したことはいずれも適法である。

したがって、これを前提とした被告の本件六年分各処分はいずれも適法であるということができる。

三  なお、付言すれば、原告は、〈1〉本件土地の競売剰余金として実際に受け取った金額が負担付贈与を受けた金額であり、右金額について相続税が賦課されるべきであり、競売は負担除去のための手段にすぎないので、独立の課税原因ではない、〈2〉仮に譲渡所得を課すべきであるとしても、遺贈された価額を越える価額で売却されたときにその超過額が譲渡益であり、この譲渡益に対して譲渡所得が課税されるべきであり、譲渡所得は原告が現実に受け取った競売剰余金である旨主張するが、これらはいずれも清十郎から本件土地及び万寿閣の出資持分(二〇口の一〇分の六)を負担付遺贈により取得したことを前提とするものであるところ、そもそも取得原因は負担付遺贈ではないから、その主張は前提を欠いており、いずれも失当である。すなわち、負担付遺贈とは、受遺者に一定の法律上の義務を負担させる遺贈であるところ、清十郎の遺言書(甲七)には受遺者に一定の法律上の義務を負担させた部分は存在せず、かえって、証拠(甲七、乙一)及び弁論の全趣旨によれば、原告は清十郎から全財産について包括遺贈を受け、他の相続人から遺留分減殺請求権が行使された結果、清十郎の全財産(債務を含む)の一〇分の六を包括承継し、遺留分減殺請求権を行使した他の四人の相続人との間で、本件土地及び万寿閣の出資持分を共有するに至った一方、債務についても一〇分の六の割合で負担するに至ったものと認められる。原告が清十郎の負債を承継したのは、遺言により義務を負担させられたからではなく、包括遺贈の結果、清十郎の遺産を一〇分の六の割合で相続した相続人と基本的に同一の権利義務を有するに至ったからである(民法九九〇条)。したがって、承継した債務を弁済するため承継した資産を売却することと固有の債務を弁済するために固有の資産を売却することの間には、いずれも自己の債務を弁済するために自己の資産を売却するという点において異なるところはない。そして、任意売却と競売手続による売却と課税のうえで区別する理由はないから、売却代金から経費等を控除した売却利益について所得税を課すことは当然であり、その際の経費等の計算も通常の場合と異なるところはない。したがって、原告の前記主張はいずれも採用できない。

さらに、原告は方寿閥に対する出資持分を未だ有しているから、本件建物の競売剩余金をみなし配当と認定すべきではない旨主張するが、これも失当である。すなわち、本件建物がもと万寿閣の所有に属していたことは争いのない事実であるところ、証拠(乙二)及び弁論の全趣旨によれば、原告と万寿閣との間の配当異議訴訟(山形地方裁判所鶴岡支部平成五年回第五七号)において、平成六年六月七日、万寿閣に配当されるべき本件建物の競売剰余金のうち原告の出資持分に応じた金額を原告に配当し、残額を万寿閣に配当する旨の和解が成立し、石和解に基づき、原告が配当金を受領したことが認められるから、万寿閣が法律的に解散したか否かにかかわらず、右配当は満寿閣の社員としての地位に基づく万寿開からの所得であって、配当所得に該当することが明らかであり、これと異なる原告の主張は採用できない。

四  よって、原告の本件請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(平成一〇年一〇月六日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 山野井勇作 裁判官 本間健裕 裁判官 白川純子)

別紙

物件目録

一 所在 山形県西田川郡温海町大字湯温海字湯温海

地番 二一七番

地目 宅地

地積 三五三・四二平方メートル

二 所在 山形県西田川郡温海町大字湯温海字湯温海

地番 二二〇番

地目 宅地

地積 七五一・八四平方メートル

二 所在 山形県西田川郡温海町大字場温海字湯温海二二〇番地

家屋番号 二二〇番

種類 店舗

構造 木造セメント瓦葺モルタル塗二階建

床面積 一階 六六八・三九平方メートル

二階 四八六・四七平方メートル

別表一 (平成五年分)

〈省略〉

別表二 (平成六年分)

〈省略〉

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